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10-8 動揺 2

last update Huling Na-update: 2025-04-27 09:12:41

 1時間後――

「朱莉! 何処だ!?」

朱莉が美浜タウンリゾート・アメリカンビレッジのカフェにいると、慌てた様子で航が店内に現れた。

「航君! こっちだよ!」

朱莉が手を振ると航がほっとした顔で駆けつけ、ドサリと椅子に座りこんだ。

「すまなかった、1時間近くも待たせてしまって」

テーブルの上に手をおくと頭を擦り付けるような勢いで謝ってきた。

「え? やだ、何を言ってるの? むしろ謝るのは私の方だよ。だって那覇市からここまで航君に迎えに来てもらうことになっちゃって……本当にごめんね」

「何言ってるんだよ! そもそも迎えに行くって言い出したのは俺の方なんだから。ところで……京極に何か変な真似されなかったか?」

「変な真似……? ううん。別に何もされてないけど……?」

答えながら朱莉は思った。

(航君の言う変な真似って一体どこからが変な真似になるのかな? 抱きしめられたことも変なうちに入るのかな?)

だが航が心配するだろうと思い、朱莉は黙っていることにした。

「それで京極は何て言ってきたんだ? あ、その前に注文してきていいか?」

航はガタンと立ち上がりながら朱莉に尋ねた。

「うん、どうぞ。暑い中来たから大変だったでしょう?」

「ああ、喉カラカラだぜ。じゃ、ちょっと行ってくるな?」

カウンターへ向かう航の背中を見ながら朱莉は思った。

(ふふふ……やっぱり航君といる時が一番気を遣わなくて楽だな……それに安心出来るし……)

「京極は何故沖縄に来てたんだ?」

アイスコーヒーのラージサイズを持ってきた航は余程喉が渇いていたのか、一気に飲み干すと朱莉に尋ねた。

「う、うん。それがね……驚きなの。京極さん、沖縄のこの場所に自分のオフィスルームを作ったんだって」

「な……何いっ!? その話、本当なのか!?」

大袈裟に驚く航の姿に店内にいた客の視線が集中する。

「航君……落ち着いて。ここ、お店だから」

朱莉が航に耳打ちする。

「あ、ああ……悪い……つい、驚きのあまり……」

(くっそ〜。一体あの男は何を考えているんだ!? 朱莉に会う為だけに沖縄に自分の会社を建てたっていうのか!? だとしたら京極と言う人間は正気じゃないぞ!)

「それで、京極は何故沖縄に会社を作ったって言ったのか?」

「うん。京極さんの話では、元々社員の方は沖縄在住の人が多いらしくて、まずは東京に会社を建てる前に沖縄でオフィ
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-9 航の葛藤 1

    「航君。京極さんにもう顔が知られているのに調査なんて出来るの?」朱莉が心配して尋ねた。「ああ、こう見えて俺はプロだ。絶対の自信はある。それに……どれだけ俺が修羅場を潜り抜けてきたと思ってる?」航は自慢げに胸を逸らす。「え? そうなの? やっぱり興信所の調査員の人達って随分ドラマチックな生き方をしているんだね?」朱莉が目を見開く。今迄朱莉は絵にかいたような平凡な日常生活を送ってきていた。なので航のドラマチックな生き方が正直、羨ましいと思ってしまったのである。あまりにも朱莉が航の話を真剣に受け止めているので、航は気まずそうに言った。「い、いや……修羅場を潜り抜けてきた……って言うのは多少話を盛り過ぎてしまったかもしれないけど……とにかく、俺は京極の事を調べてみようと思う」「あ。でもそう言えば京極さんが気になることを言っていたっけ……」朱莉は京極との会話を思い出した。「何? 気になること? あいつ、一体朱莉に何を言ったんだ?」航は身を乗り出してくると朱莉に尋ねた。「うん、車の中で航君の話題が出て京極さんが言ったの。航君は調査員だから、自分のことを既に色々調べているんじゃないかって」航の眉が上がり、顔が険しくなった。「京極の奴……そんなことを朱莉に言ったのか?」「う、うん。だから京極さんはもしかすると航君のことかなり気にかけているみたいだよ? だからそんな京極さんを調査するって難しいんじゃないの?」朱莉は心配そうに尋ねる。「ああ。確かに調査はやりにくくなるかもしれないが……でも知りたいんだろう? 京極のこと」「知りたいって言うか、どうして肝心なことを何も話してくれないんだろうって。だから私は京極さんと会う時はいつも何処か不安で……」「そんなことは決まっている。それは京極にやましい所があるからだ。それこそ朱莉には言えないようなやましいことがな!」航は力説した。「航君?」「くそっ! 本当にあの京極って男は進出気没で朱莉を怖がらせるような真似をしやがって! こんなことなら、あの九条って男の方がずっとマシだ!」何故かイラついた口調で話す航。(どうしちゃんたんだろう? 航君……何だかイライラしているみたいだけど。違う話題をしてみようかな)朱莉は航に話しかけた。「ねえ、航君。お父さんに報告の仕事って、もう終わったの?」「ああ、終わっ

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-10 航の葛藤 2

    「朱莉、ここはアメリカンビレッジと言うだけあって、ハンバーガーショップが有名らしいぞ? しかも本場のアメリカ人も絶品だって書いてある!」航は何処から用意したのか、ガイドブックを見ながら、エリア内を朱莉と歩きながら興奮したかのように話している。「フフ……航君はハンバーガー好きなの? やっぱり男の子だね」「男の子……」航はまた自分が子ども扱いされたことにショックを受けつつも朱莉に言った。「な、なんだよ。そういう朱莉はどうなんだ? ハンバーガー好きじゃないのかよ」「ううん、好きだよ。でも全国規模のチェーン店しか行ったことがないんだけど」歩きながら航の持っているガイドブックを覗き込んだ。その瞬間、航の鼻に朱莉のフワッとした髪が顔に触れ、シャンプーの香りが航の鼻をかすめた。その瞬間航の顔が真っ赤になり、心臓が煩いほどドキドキ鳴りだした。(お、落ち着け……俺の心臓……!)しかし当の朱莉は航の葛藤に気付きもせずに、真剣にガイドブックを覗きこみ……やがて顔を上げると、航の顔が真っ赤に染まっているのを目にした。「キャアッ! ど、どうしたの? 航君、顔が真っ赤だけど……?」「あ、ああ。ちょっと暑いから……かな?」航は何とか必死で胡麻化そうとした。「大変! 熱中症かな? 急いで涼しい場所へ行こう? あ! 見て、航君。あそこに丁度ハンバーガーショップがあるよ? あそこに行ってみよう!」朱莉は航の左手を握ると、手を引くように歩き始めた。「あ、朱莉……?」航は自分から朱莉が手を繋いできたことにすっかり動揺してしまい、今にも心臓が口から飛び出しそうになった。(くそっ! 一体どうしたんだよ……これじゃ、まるで10代の高校生みたいじゃないか……!)朱莉はハンバーガーショップの店の前に到着すると、航の手を離した。「さ、航君。お店に入ろうよ」 店内に入った2人はメニュー表を見て、朱莉はアボガドシュリンプバーガー、航は照り焼きチキンバーガーをそれぞれ頼むことにした。「お? すげ〜ここのバーガーショップ、クラフトビールもあるぞ?」「航君、飲んだら?」朱莉の言葉に航は驚いた。「な、何言ってるんだよ? 車の運転があるのに飲めるはず無いだろう?」「運転なら私がするから大丈夫だってば」「いや、そんなわけにいかないだろう?」「大丈夫だってば。それにね、私……航

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-11 航の考え 1

    「フワアアア……」朱莉の運転する車の中で航は5回目の欠伸をした。「フフフ……ビールを飲んで車に乗ってるから眠くなっちゃったんでしょう? 着いたら起こしてあげるから眠っていいよ?」朱莉がハンドルを握りしめながら助手席に座っている航に声をかけた。「いや……だって、それじゃ運転している朱莉に……悪いだろ……?」今にも眠ってしまいそうな声で航は言う。「そんなこと気にしなくていいってば。ほら、眠って? どうせあと30分くらいはマンションに着くまで時間かかるんだから」「ああ……悪いな……。それじゃ少し寝かせてもらう……」最後まで言い終わる前に航は眠りについてしまった。朱莉は航の眠っている横顔を見ながら思った。(フフ……本当に弟みたい。航君は童顔だから尚更そう見えちゃうな)そして信号が赤になった時、朱莉はショパンのクラシックCDを車にセットすると、ボリュームを小さくして音楽を車内に流し、これからのことを考えた。(どうしよう……やっぱり翔先輩に報告をしないと駄目だよね。京極さんが沖縄にやって来て、偶然会ってしまったこと……。翔先輩に責められるかな? どうして妊婦の恰好をしていなかったんだって。それに航君のこと報告しないといけないのかな……?)そのことを思うと朱莉は気が重くなってしまった。こんな時琢磨が居てくれれば相談に乗って貰えたのにと思った。口では迷惑を掛けられないと言っていても結局朱莉は琢磨に助けを求めようとしていることに気が付いてしまった。「九条さん……今、どうしているんだろう……」朱莉はポツリと呟いた——****「航君、航君。起きて、着いたよ?」朱莉はマンションの駐車場に着くと、航を揺すった。「あ……着いたのか?」航は目を擦りながらぼんやりした声で訊ねた「うん。もう目、覚めたかな?」「ああ、大丈夫だ。悪かったな。朱莉に運転させて……」「そんなこと気にしなくていいから。それじゃマンションに戻ろう?」「そうだな。帰るか」朱莉が5F行きのエレベーターボタンを押すと、ドアはすぐに開いた。そして2人で乗り込んだ時、航は朱莉の表情が浮かないことに気が付いた。「朱莉、どうしたんだ? 何だか元気が無いみたいだけど……。あっ! さてはまたあいつが妙なことを言ってきたか?」「あいつって……どっちのあいつ?」朱莉が笑みを浮かべながら航を見

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-12 航の考え 2

    「私、京極さんに姿見られてしまったからすごく困ってるの。明日香さんの赤ちゃんは私が産んだことにしなくちゃならないのに。京極さんにお腹が大きくない姿見られちゃったから絶対に私が赤ちゃんを抱いて戻ったら誰の子供かって問い詰められると思うの……」「朱莉……」「京極さんは会ったらいけない人だったのに。だから明日香さんが出産の為にアメリカに旅立っても、私は1人、沖縄に残っていたのに、まさか京極さんが沖縄にやってくるなんて……。しかも翔先輩の秘書の女性と一緒に億ションから出て来る写真まであったし」「俺が京極と姫宮って女秘書の関係を調べる。そして……朱莉。京極にこの先、朱莉が子供を連れて東京の億ションに戻った時その子供は誰の子供なのかしつこく聞かれるようなら……喋ってしまえ。明日香が産んだ子供だって」朱莉は航の話に驚いて顔を上げた。「航君! でもそれは……翔先輩との契約違反に……」「要はっ!」朱莉の言葉を制するように航が言った。「要は……京極が世間に朱莉達の秘密をばらさなければいいんだろう?」「航君……」「だから俺達は京極の秘密を手に入れるんだ」「京極さんの秘密……?」朱莉は首を傾げた。「ああ、京極は鳴海翔の秘書と何らかの関係があるのは間違いないんだ。あの2人の関係を探ればとんでもない秘密が暴かれるかもしれないぞ? だから俺は必ず京極と姫宮の情報を手に入れる。そしてもし朱莉を脅迫してこようとしたら京極に掴んだ情報を言うんだ。逆に朱莉が京極を黙らせる為に脅迫するんだよ。いや……言い方が悪いな。お互いの秘密を守らせる……協定を結ばせる? とでも言い方を変えてみるか?」「航君……」「とにかく今は白を切りとおすんだ。明日香の産んだ子供を連れて東京へ戻るまでは……な?」「う、うん。分かった。航君がそう言うなら……」「よし、それじゃ明日から早速京極の事を調べるか!」航が妙に張り切って言うので朱莉は尋ねた。「ねえ。それより航君。沖縄での仕事は終わったの? 京極さんのこと調べる余裕あるの?」「ああ、ほぼ沖縄での仕事は終わった。だから心配するな。それで……朱莉。京極の新しい会社の場所は覚えているか?」航はPCをカバンの中から取り出すと、ネットで美浜アメリカンビレッジの地図を表示し、拡大させた。「う~ん……ごめんね。上空写真の地図だとちょっと分かりにくい

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-13 京極からの呼び出し 1

     その日の夜―― 食事も風呂も終えた航は明日から京極のことを調べる為の下準備をしていた所、突如スマホが鳴った。その相手は父からだった。「げっ! と……父さんからだ……」航は髪をクシャリと書き上げ、露骨に嫌そうな顔をした。「え? 安西先生から?」食器洗いをしていた朱莉が振り向いた。「ああ。今迄はメールばかりだったのに何だってこんな急に電話なんか掛けてきて。何だか嫌な予感がするな……」「でも出た方がいいよ? 急用かもしれないし」「そうだな……。仕方ない……」航が頷くのを見届けると朱莉は再び食器洗いを始めた。航はスマホをタップすると電話に出た。「もしもし……」『航か。今までの報告書は全て目を通した。ご苦労だったな』「ああ、別にこれ位は大したことじゃない。後、残りの証拠は……」『その件ならもういいんだ。依頼主も納得してくれたから、航。お前明日東京に帰って来い』父親の突然の話に航は驚いた。「はあ!? 何だよ! 急にそんなこと言われても、まだこっちでやることが残ってるんだよ!」『いや、もうこれで今回の仕事は終わりだ』「何だよ、それ……。折角沖縄まで来て、ことが片付いたらすぐに戻れなんて……」その言葉が朱莉の耳にも届いた。(え? 航君……ひょっとして東京に戻っちゃうの?)朱莉は動揺した。リビングではまだ航と父との会話が続いている。『まあ本来なら2日位は休みを与えてやりたいところだが、至急の依頼が入ったんだよ。どうしても手が足りないから航、お前に戻って来て欲しいんだ。お前に調査をして貰わなければならなくなったんだよ』「一体、今度はどんな調査なんだよ。どうせ浮気調査なんだろう? だったら……」『いや、今回は浮気調査じゃない』「へえ……珍しいな。それじゃ何の調査なんだ?」『企業調査だ。ある企業からの依頼で今度新規に取引をする企業があるらしいのだが、そこが信用に値するかどうか調べて欲しいらしい。業績や経営状態、営業内容の把握……それらを調べて貰いたいそうだ」「ふ~ん……。成程……っておい! 俺はまだ引き受けるとは……!」『依頼相手はIT業界で注目を浴びている企業なんだ。『リベラルテクノロジーコーポレーション』という会社だ。航、お前この企業知ってるか?」「な、なんだって!? 『リベラルテクノロジーコーポレーション』だって!?」航は

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-14 京極からの呼び出し 2

    「え!? まさか『リベラルテクノロジーコーポレーション』って京極さんの会社の!?」「そうだ……。きっとこれは京極の差し金に違いない! 恐らくアイツは俺が自分のことを調べようと思っているのに感づいたのかもしれない。俺と言う邪魔な存在を排除するために東京へ戻すように企てたんだ……!」「航君……」「朱莉、すまない!」航はソファから降りると朱莉に突然土下座をしてきた。「ま、待って。航君、そんな真似しないで。だって航君は何も悪いことしていないじゃない」朱莉は慌てて航の側へ行くと肩に手を置いた。航は朱莉の顔を見つめた。「いや、やはり俺のせいなんだ。俺が……京極の前で興信所の調査員だと身元を明かしたからあいつは俺のことを調べたんだ。絶対そうに決まっている」「航君……」その時、朱莉のスマホが鳴った。朱莉はテーブルの上に置いてたままのスマホに手を伸ばしたが……着信相手を見て固まってしまった。相手は京極だったのだ。「朱莉、俺にそのスマホ貸せ!」朱莉が頷くと、航は自ら朱莉のスマホをタップした。「もしもし……」なるべく怒気を押さえて話すが、京極に対する怒りがどうしても抑えられない。『ああ……安西君でしたか。こんばんは』妙に落ち着いた声が受話器越しから聞こえてきた。「京極さん……俺が朱莉の電話に出たのに随分落ち着いていらっしゃいますね?」『そうかな? もし、そう感じられるのであれば安西君、君に何か心当たりがあるからでは無いですか?』「何!?」「わ、航君……」朱莉が航の剣幕に困惑している。「京極さん、俺は明日東京へ帰らなくてはならなくなりましたよ」『そうですか。それはまた急ですね。飛行機のチケットは取れそうですか?』「いいえ、あまりにも突然の話だったのでこれから手配しなくてはならなくて大変ですよ。もしかすると飛行機の席をとれないかもしれませんね」お互い、冷静な口調で話してはいるが、そこにはまるで火花が飛散っているように朱莉には感じた。『それなら大丈夫。僕が羽田行のチケットを押さえてあるから』京極の言葉に航は衝撃を受けた。「何だって……!?」航は初めて、そこで怒りを露わにした。『それで航君、君に飛行機のチケットを渡したいのでこれから会えませんかね?』「それは丁度良かった。俺もあんたに会いたいと思っていたんでね」もう航は京極に対して

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-15 京極と航 1

     航が待ち合わせ場所に着いた時には既に京極の姿がそこにあった。「やあ、安西君。待っていたよ」京極は笑顔で航に笑顔で挨拶をしてきた。「京極……」航は苦々し気に京極の名を呟いたが、京極の耳には届いていた。「また君はそんな口の利き方を……いいかい、僕は君よりも5歳年上なんだよ? もう少し部をわきまえるべきだと思うけどね?」「ああ、普通はそうだろうがな……。だが、あんたは朱莉の敵だ。敵に対して部をわきまえるつもりは俺には無い」「……」京極は黙って航を見つめていたが、やがて言った。「やめておこう。こんな人通りが多い場所で立ち話をするような話の内容でもないし。そうだな、ビーチにでも行ってみるかい?」「あいにく夜に男とビーチに行くような趣味は俺には無いんだよ。朱莉とだったら一緒に行ってもいいけどな?」ニヤリと口角をあげる航。「朱莉……」京極の眉がピクリと動いた。航はわざと京極を挑発するような言い方をしたのだ。「いいだろう、それじゃ航君は話し合いの場は何所なら構わないって言うんだい?」京極は肩をすくめた。「お前となら、その辺のファミレスで十分だ」何所までも喧嘩腰な口調の航。「ファミレスか……。うん、丁度あそこにあるね。よし、行こう」京極が先に立って歩き出したので、航は後に続いた。 2人でファミレスの席に向かい合わせで座り、お互いコーヒーを注文した。そして程なくしてそれぞれの前にコーヒーが運ばれてくると、早速京極が口を開いた。「さて、本題に入らせて貰おうか? 航君、忠告しておく。僕のことを調べるのはやめるんだ。君のような人物に周辺をチョロチョロされるのは、はっきり言って迷惑なんだ。さもなくば……」「さもなくば……どうするんだ? 俺を脅迫するネタでもあるのか?」「別にそういうことはないけどね。ただ、周りを嗅ぎまわられるのは、いい気分はしない。君だって、自分がその立場だったらそう思うだろう?」「自分のことを調べるのはやめろって、つまりお前に何かやましいことがあるからだろう? 第一そっちこそ俺のことを調べているんじゃないのか? そうでもなければ、わざわざうちみたいな小さい興信所に企業調査の依頼なんかしてくるはずがない」「……」京極は黙って航の話を聞いている。「お前は俺が朱莉の側にいるのが邪魔で仕方が無いんだろう? だから朱莉から俺を

    Huling Na-update : 2025-04-28
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-16 京極と航 2

    「……うまい言い訳だな」腕組みをしてこちらを睨み付けている航を見て京極は溜息をついた。「どうも君はさっきから僕のことを何か勘違いしているように見えるから、この際はっきり言わせてもらう。いいか? 僕は敵じゃ無い」「敵? 何のことだか」すると京極の態度が変わった。顔つきが険しくなり、声のトーンが低くなった。「いいか? 敵を見誤るな。本当の敵は誰なのか、よく考えてみろ。君が余計な動きをすると今迄立ててきた計画に支障をきたすんだ」「な、何だよ……その計画って言うのは……」航が尋ねると京極が言った。「いいだろう。別に教えてやってもな。その代わり約束して貰う。この話を聞いた後はもう僕のことを嗅ぎまわるのはやめてもらうからな?」そして京極は静かに語り始め……航の顔色が青ざめていった――****「航君、遅いな……」朱莉はリビングで航が帰って来るのを待っていた。壁にかけてある時計を見ると時刻は既に夜中の0時を過ぎている。「戸締りをして先に休んでいるように言われてたけど心配だな……」——ガチャリ丁度その時、玄関のドアが開く男が聞こえた。(航君が帰って来たんだ!)「お帰りなさい、航くん!」朱莉は笑顔で玄関まで迎えに行った。「ええ? まだ起きていたのか?」航はびっくりした様子で朱莉を見つめる。「それで京極さんとの話し合いはどうなったの?」「うん、気になって眠れなくて……それで京極さんとの話はどうなったの?」「ああ、それなら問題ない。大丈夫、解決したんだ。朱莉は何の心配もする必要は無いからな?」航は笑顔で答える。「え? 航君……それは一体どういう意味なの……?」(何だろう? 何だか釈然としない。マンションを出た時の航君と、今の航君は何故か別人のように感じる……)「だから、朱莉。そんなに心配そうな顔するなって。京極はもう朱莉に余計なことは何一つ尋ねないって約束してくれたんだよ。それってつまり朱莉が10月に明日香の産んだ子供を連れて億ションに戻ったとしても京極は何も聞かないってことだとは思わないか? 朱莉が答えられない質問は一切しないと京極が約束したんだ。だから俺もその代わりに京極のことを調べるのはやめると互いに取り決めを交わしたのさ」「航君……?」朱莉は耳を疑った。本当は航は京極に何か脅迫されて、今の台詞を言わされているのではないだろ

    Huling Na-update : 2025-04-28

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-21 戻りつつある日常 1

     京極に連れられてやってきたのは国際通りにあるソーキそば屋だった。「一度朱莉さんとソーキそばをご一緒したかったんですよ」京極が運ばれて来たソーキそばを見て、嬉しそうに言った。このソーキそばにはソーキ肉が3枚も入っており、ボリュームも満点だ。「はい。とても美味しそうですね」朱莉もソーキそばを見ながら言った。そしてふと航の顔が思い出された。(きっと航君も大喜びで食べそうだな……。私にはちょっとお肉の量が多いけど、航君だったらお肉分けてあげられたのに)朱莉はチラリと目の前に座る京極を見た。とても京極には航の様にお肉を分ける等と言う真似は出来そうにない。すると、京極は朱莉の視線に気づいたのか声をかけて来た。「朱莉さん、どうしましたか?」「い、いえ。何でもありません」朱莉は慌てて、箸を付けようとした時に京極が言った。「朱莉さん、もしかするとお肉の量が多いですか……?」「え……? 何故そのことを?」朱莉は顔を上げた。「朱莉さんの様子を見て、何となくそう思ったんです。確かに女性には少し量が多いかも知れませんね。実は僕はお肉が大好きなんです。良ければ僕に分けて頂けますか?」そしてニッコリと微笑んだ。「は、はい。あ、お箸……まだ手をつけていないので、使わせて頂きますね」朱莉は肉を摘まんで京極の丼に入れた。その途端、何故か自分がかなり恥ずかしいことをしてしまったのではないかと思い、顔が真っ赤になってしまった。「朱莉さん? どうしましたか?」朱莉の顔が真っ赤になったのを見て、京極が声を掛けて来た。「い、いえ。何だか大の大人が子供の様な真似をしてしまったようで恥ずかしくなってしまったんです」すると京極が言った。「ハハハ…やっぱり朱莉さんは可愛らしい方ですね。僕は貴女のそう言う所が好きですよ」朱莉はその言葉を聞いて目を丸くした。(え…?い、今…私の事を好きって言ったの?で、でもきっと違う意味で言ってるのよね?)だから、朱莉は敢えてそれには何も触れず、黙ってソーキそばを口に運んだ。 肉のうまみがスープに馴染み、麺に味が絡んでとても美味しかった。「このソーキそばとても美味しいですね」「ええ、そうなんです。この店は国際通りでもかなり有名な店なんですよ。それで朱莉さん。この後どうしましょうか?もしよろしければ何処かへ行きませんか?」「え?」

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-20 見送りのその後 2

    「え……? プレゼントと急に言われても受け取る訳には……」しかし、京極は譲らない。「いいえ、朱莉さん。貴女の為に選んだんです。お願いです、どうか受け取って下さい」その目は真剣だった。朱莉もここまで強く言われれば、受け取らざるを得ない。(一体突然どうしたんだろう……?)「分かりました……プレゼント、どうもありがとうございます」朱莉は不思議に思いながらも帽子をかぶり、京極の方を向いた。すると京極は嬉しそうに言う。「ああ、思った通り良く似合っていますよ。さて、朱莉さん。それでは駐車場へ行きましょう」京極に促されて、朱莉は先に立って駐車場へと向かった。駐車場へ着き、朱莉の車に乗り込む時、京極が何故か辺りをキョロキョロと見渡している。「京極さん? どうしましたか?」すると京極は朱莉に笑いかけた。「いえ、何でもありません。それでは僕が運転しますから朱莉さんは助手席に乗って下さい」何故か急かすような言い方をする京極に朱莉は不思議に思いつつも車に乗り込むと、京極もすぐに運転席に座り、ベルトを締めた。「何処かで一緒にお昼でも食べましょう」そして京極は朱莉の返事も待たずにハンドルを握るとアクセルを踏んだ——「あの、京極さん」「はい。何ですか?」「空港で何かありましたか?」「何故そう思うのですか?」京極がたずねてきた。(まただ……京極さんはいつも質問しても、逆に質問で返してくる……)朱莉が黙ってしまったのを見て京極は謝った。「すみません。こういう話し方……僕の癖なんです。昔から僕の周囲は敵ばかりだったので、人をすぐに信用することが出来ず、こんな話し方ばかりするようになってしまいました。朱莉さんとは普通に会話がしたいと思っているのに。反省しています」「京極さん……」(周囲は敵ばかりだったなんて……今迄どういう生き方をして来た人なんだろう……)「朱莉さん。先程の話の続きですけど……。実は僕は今ある女性からストーカー行為を受けているんですよ」京極の突然の話に朱莉は驚いた。「え? ええ!? ストーカーですか!?」「そうなんです。それでほとぼりが冷めるまで東京から逃げて来たのに……」京極は溜息をついた。「ま……まさか京極さんがストーカー被害だなんて……驚きです」(ひょっとして……ストーカー女性って姫宮さん……?)思わず朱莉は一瞬翔の

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-19 見送りのその後 1

    「安西君…行きましたね」航の背中が見えなくなると京極が朱莉に話しかけてきた。「そうですね。……京極さん。昨夜……航君と何を話したんですか?」「航君は朱莉さんに昨夜のことを話しましたか?」「いいえ」「それなら僕の口からもお話することが出来ません。今はまだ。でも……必ず、いつかお話します。それまで待っていて下さいね」「……」(また……いつもの京極さんの口癖…)「京極さんは何故空港に来たのですか?」朱莉は俯くと別の質問をした。「安西君を見送りに来た……と言ったら?」「!」驚いて京極を見上げると、そこには笑みを浮かべた京極の顔があった。「そんな驚いた顔をしないで下さい。ここへ来たのは朱莉さん、貴女がきっとここに来ると思ったからです」「え?」「僕は朱莉さんに会いたかったから、ここに来ました。すみません。こんな方法を取って……。こうでもしなければ会ってはくれないかと思ったので」京極は頭を下げてきた。「京極さん。航君が突然東京へ帰ることになったのは、京極さんが航君のお父さんに仕事を依頼したからですよね?」朱莉が尋ねると京極は怪訝そうな顔を浮かべる。「もしかして……安西君が言ったのですか?」朱莉が黙っていると京極は溜息をついた。「彼は仕事内容を朱莉さんに告げたんですね? 顧客の依頼を第三者に打ち明けてしまった……。安西君は調査員のプロだと思っていたのに……」そこで朱莉は、アッと思った。(そうだ……! 依頼主の話は絶対に関係無い相手には話してはいけないことだって以前から航君が言っていたのに……私はそれを忘れて、京極さんに話してしまうなんて……!)「お、お願いです! 京極さん。どうかこのことは絶対に航君や……航君のお父さんに言わないで下さい! お願いします! 普段の航君なら絶対に情報を誰かに漏らすなんてことはしない人です。ただ、今回は……」気が付くと、朱莉は目に涙を浮かべ、京極の腕を振るえながら掴んでいた。「前から言ってますよね? 僕は朱莉さんの言葉ならどんなことだって信じるって。例えそれが嘘だとしても信じます。だって貴女は私利私欲の為だけに誰かを利用したり、嘘をついたりするような人では無いから」「京極さん……」「確かに、僕は今回安西弘樹興信所に企業調査の依頼をしました。ですが、それは朱莉さんが考えているような理由じゃありません

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-18 航との別れ 2

    11時半—— 朱莉と航は那覇空港へと戻って来ていた。朱莉は先ほどの『瀬長島ウミカジテラス』が余程気に入ったのか、航に感想を述べている。「本当にびっくりしちゃったよ。まさかあんな素敵なリゾート感たっぷりの場所があるなんて。まるで何処かの外国みたいに感じちゃった」「そうか、そんなに朱莉はあの場所が気に入ったのか。それならまた行ってみたらいいじゃないか」航の言葉で、途端に朱莉の顔が曇った。「うん……そうなんだけど……。でも、私1人では楽しくないよ。航君と一緒だったからあんなにも素敵な場所に見えたんだよ」「朱莉……」朱莉の言葉に、もう航は感情をこれ以上押さえておくことが出来なかった。(もう駄目だ……!)気付けば、航は朱莉の腕を掴み、自分の方へ引き寄せると強く朱莉を抱きしめていた。(朱莉……! 俺は……お前が好きだ……離れたくない!)航は朱莉の髪に自分の顔を埋め、より一層朱莉を強く抱きしめた。「わ、航君!?」位置方、驚いたのは朱莉の方だった。航に腕を掴まれたと思った途端、気付けば航に抱きしめられていたからだ。慌てて離れようとした瞬間、航の身体が震えていることに気が付いた。(航君……もしかして泣いてるの……?)——その時。「何をしているんですか?」背後で冷たい声が聞こえた。航は慌てて朱莉を引き剥がすと振り向いた。するとそこに立っていたのは——「京極……」京極は冷たい視線で航を見ている。「安西君。君は今朱莉さんに何をしていたんだい?」「……」(まさか……こいつが空港に来ていたなんて……!)航はぐっと拳を握った。その時、朱莉が声を上げた。「わ、別れを! 別れを……2人で惜しんでいたんです……。そうだよね、航君?」朱莉は航を振り返った。「あ、ああ……。そうだ」「別れ……? でも僕の目には航君が一方的に朱莉さんを抱きしめているようにも見えましたけど?」「そ、それは……」思わず言葉が詰まる航に朱莉が素早く反応する。「そんなことありません!」「朱莉……?」「朱莉さん……」朱莉の様子を2人の男が驚いた様に見た。丁度その時、航の乗る飛行機の搭乗案内のアナウンスが流れた。「あ……」航はそのアナウンスを聞いて、悲し気に言った。「朱莉。俺、もう行かないと……」「う、うん……」すると京極が笑みを浮かべる。「大丈夫ですよ、

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-17 航との別れ 1

    「朱莉、おはよう!」航は笑顔で元気よく朱莉に朝の挨拶をした。8時に起きた航がキッチンに行くと、そこにはもう朱莉が朝食の用意をして待っていたのだ。「おはよう、航君」朱莉も笑顔で挨拶する。「朱莉、今朝の朝飯は和食か?」航がテーブルに座ると尋ねた「うん。そうだよ」朱莉は、ご飯に味噌汁、焼き鮭、青菜の煮びたし、だし巻き卵をテーブルに並べた。「へえ~どれもうまそうだな」「ありがとう、それじゃ食べよう?」そして2人でいつもと同じように向かい合わせで食事を始めた。「うん、やっぱり朱莉の作った飯はうまいな」航は笑顔で言いつつも、心の中は暗く沈んでいた。(もう……こうやって朱莉の手作り料理を食べることも無くなるんだな……)すると、そんな航の気持ちを汲み取ったのか朱莉が言った。「あ、あのね……航君さえ良かったら、東京に戻っても時々は私の住む部屋に遊びにきてくれれば、食事位用意するけど……?」「朱莉……」航はその言葉を聞けて、自分でも驚く位感動してしまった。だが……。「朱莉……。気持ちは嬉しいけど……多分それは無理だろう……?」「え? どうして?」朱莉は顔を上げた。「どうしてって……。だって次に朱莉が東京に戻れば赤ん坊との生活が始まるわけだろう? そんな子育てで忙しい時に……俺が訪ねるわけにはいかないだろう……?」航は茶碗と箸を持ちながらポツリと呟いた。「あ……」朱莉もそのことを指摘されて気付いた。(そうだ……私は明日香さんの赤ちゃんをこれから24時間見守っていかないといけない。しかも自分の赤ちゃんじゃないから翔先輩と明日香さんの大切な赤ちゃんを預かる訳だから、より一層神経を使って育てて行かなくちゃならないんだ……)「そ、そうだったね。確かに航君の言う通り難しいかも……」すっかり元気を無くしてしまった朱莉を見て、航は慌てた。「あ、で、でも朱莉! 子育てが落ち着いて……そして5年後、鳴海翔との離婚が成立すれば、その時は俺が……!」言いかけて、航は口を閉ざした。俺が……? その後自分は何を言おうとしたのだろう? 一瞬昨夜言われた京極との話を忘れかけていた。(そうだ……俺はもう朱莉のことを……諦めなくちゃいけないんだ……)思わず目頭が熱くなりかけ、航は目を腕でゴシゴシと擦った。「航君? どうしたの?」朱莉が不思議そうに首を傾げ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-16 京極と航 2

    「……うまい言い訳だな」腕組みをしてこちらを睨み付けている航を見て京極は溜息をついた。「どうも君はさっきから僕のことを何か勘違いしているように見えるから、この際はっきり言わせてもらう。いいか? 僕は敵じゃ無い」「敵? 何のことだか」すると京極の態度が変わった。顔つきが険しくなり、声のトーンが低くなった。「いいか? 敵を見誤るな。本当の敵は誰なのか、よく考えてみろ。君が余計な動きをすると今迄立ててきた計画に支障をきたすんだ」「な、何だよ……その計画って言うのは……」航が尋ねると京極が言った。「いいだろう。別に教えてやってもな。その代わり約束して貰う。この話を聞いた後はもう僕のことを嗅ぎまわるのはやめてもらうからな?」そして京極は静かに語り始め……航の顔色が青ざめていった――****「航君、遅いな……」朱莉はリビングで航が帰って来るのを待っていた。壁にかけてある時計を見ると時刻は既に夜中の0時を過ぎている。「戸締りをして先に休んでいるように言われてたけど心配だな……」——ガチャリ丁度その時、玄関のドアが開く男が聞こえた。(航君が帰って来たんだ!)「お帰りなさい、航くん!」朱莉は笑顔で玄関まで迎えに行った。「ええ? まだ起きていたのか?」航はびっくりした様子で朱莉を見つめる。「それで京極さんとの話し合いはどうなったの?」「うん、気になって眠れなくて……それで京極さんとの話はどうなったの?」「ああ、それなら問題ない。大丈夫、解決したんだ。朱莉は何の心配もする必要は無いからな?」航は笑顔で答える。「え? 航君……それは一体どういう意味なの……?」(何だろう? 何だか釈然としない。マンションを出た時の航君と、今の航君は何故か別人のように感じる……)「だから、朱莉。そんなに心配そうな顔するなって。京極はもう朱莉に余計なことは何一つ尋ねないって約束してくれたんだよ。それってつまり朱莉が10月に明日香の産んだ子供を連れて億ションに戻ったとしても京極は何も聞かないってことだとは思わないか? 朱莉が答えられない質問は一切しないと京極が約束したんだ。だから俺もその代わりに京極のことを調べるのはやめると互いに取り決めを交わしたのさ」「航君……?」朱莉は耳を疑った。本当は航は京極に何か脅迫されて、今の台詞を言わされているのではないだろ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-15 京極と航 1

     航が待ち合わせ場所に着いた時には既に京極の姿がそこにあった。「やあ、安西君。待っていたよ」京極は笑顔で航に笑顔で挨拶をしてきた。「京極……」航は苦々し気に京極の名を呟いたが、京極の耳には届いていた。「また君はそんな口の利き方を……いいかい、僕は君よりも5歳年上なんだよ? もう少し部をわきまえるべきだと思うけどね?」「ああ、普通はそうだろうがな……。だが、あんたは朱莉の敵だ。敵に対して部をわきまえるつもりは俺には無い」「……」京極は黙って航を見つめていたが、やがて言った。「やめておこう。こんな人通りが多い場所で立ち話をするような話の内容でもないし。そうだな、ビーチにでも行ってみるかい?」「あいにく夜に男とビーチに行くような趣味は俺には無いんだよ。朱莉とだったら一緒に行ってもいいけどな?」ニヤリと口角をあげる航。「朱莉……」京極の眉がピクリと動いた。航はわざと京極を挑発するような言い方をしたのだ。「いいだろう、それじゃ航君は話し合いの場は何所なら構わないって言うんだい?」京極は肩をすくめた。「お前となら、その辺のファミレスで十分だ」何所までも喧嘩腰な口調の航。「ファミレスか……。うん、丁度あそこにあるね。よし、行こう」京極が先に立って歩き出したので、航は後に続いた。 2人でファミレスの席に向かい合わせで座り、お互いコーヒーを注文した。そして程なくしてそれぞれの前にコーヒーが運ばれてくると、早速京極が口を開いた。「さて、本題に入らせて貰おうか? 航君、忠告しておく。僕のことを調べるのはやめるんだ。君のような人物に周辺をチョロチョロされるのは、はっきり言って迷惑なんだ。さもなくば……」「さもなくば……どうするんだ? 俺を脅迫するネタでもあるのか?」「別にそういうことはないけどね。ただ、周りを嗅ぎまわられるのは、いい気分はしない。君だって、自分がその立場だったらそう思うだろう?」「自分のことを調べるのはやめろって、つまりお前に何かやましいことがあるからだろう? 第一そっちこそ俺のことを調べているんじゃないのか? そうでもなければ、わざわざうちみたいな小さい興信所に企業調査の依頼なんかしてくるはずがない」「……」京極は黙って航の話を聞いている。「お前は俺が朱莉の側にいるのが邪魔で仕方が無いんだろう? だから朱莉から俺を

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-14 京極からの呼び出し 2

    「え!? まさか『リベラルテクノロジーコーポレーション』って京極さんの会社の!?」「そうだ……。きっとこれは京極の差し金に違いない! 恐らくアイツは俺が自分のことを調べようと思っているのに感づいたのかもしれない。俺と言う邪魔な存在を排除するために東京へ戻すように企てたんだ……!」「航君……」「朱莉、すまない!」航はソファから降りると朱莉に突然土下座をしてきた。「ま、待って。航君、そんな真似しないで。だって航君は何も悪いことしていないじゃない」朱莉は慌てて航の側へ行くと肩に手を置いた。航は朱莉の顔を見つめた。「いや、やはり俺のせいなんだ。俺が……京極の前で興信所の調査員だと身元を明かしたからあいつは俺のことを調べたんだ。絶対そうに決まっている」「航君……」その時、朱莉のスマホが鳴った。朱莉はテーブルの上に置いてたままのスマホに手を伸ばしたが……着信相手を見て固まってしまった。相手は京極だったのだ。「朱莉、俺にそのスマホ貸せ!」朱莉が頷くと、航は自ら朱莉のスマホをタップした。「もしもし……」なるべく怒気を押さえて話すが、京極に対する怒りがどうしても抑えられない。『ああ……安西君でしたか。こんばんは』妙に落ち着いた声が受話器越しから聞こえてきた。「京極さん……俺が朱莉の電話に出たのに随分落ち着いていらっしゃいますね?」『そうかな? もし、そう感じられるのであれば安西君、君に何か心当たりがあるからでは無いですか?』「何!?」「わ、航君……」朱莉が航の剣幕に困惑している。「京極さん、俺は明日東京へ帰らなくてはならなくなりましたよ」『そうですか。それはまた急ですね。飛行機のチケットは取れそうですか?』「いいえ、あまりにも突然の話だったのでこれから手配しなくてはならなくて大変ですよ。もしかすると飛行機の席をとれないかもしれませんね」お互い、冷静な口調で話してはいるが、そこにはまるで火花が飛散っているように朱莉には感じた。『それなら大丈夫。僕が羽田行のチケットを押さえてあるから』京極の言葉に航は衝撃を受けた。「何だって……!?」航は初めて、そこで怒りを露わにした。『それで航君、君に飛行機のチケットを渡したいのでこれから会えませんかね?』「それは丁度良かった。俺もあんたに会いたいと思っていたんでね」もう航は京極に対して

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   10-13 京極からの呼び出し 1

     その日の夜―― 食事も風呂も終えた航は明日から京極のことを調べる為の下準備をしていた所、突如スマホが鳴った。その相手は父からだった。「げっ! と……父さんからだ……」航は髪をクシャリと書き上げ、露骨に嫌そうな顔をした。「え? 安西先生から?」食器洗いをしていた朱莉が振り向いた。「ああ。今迄はメールばかりだったのに何だってこんな急に電話なんか掛けてきて。何だか嫌な予感がするな……」「でも出た方がいいよ? 急用かもしれないし」「そうだな……。仕方ない……」航が頷くのを見届けると朱莉は再び食器洗いを始めた。航はスマホをタップすると電話に出た。「もしもし……」『航か。今までの報告書は全て目を通した。ご苦労だったな』「ああ、別にこれ位は大したことじゃない。後、残りの証拠は……」『その件ならもういいんだ。依頼主も納得してくれたから、航。お前明日東京に帰って来い』父親の突然の話に航は驚いた。「はあ!? 何だよ! 急にそんなこと言われても、まだこっちでやることが残ってるんだよ!」『いや、もうこれで今回の仕事は終わりだ』「何だよ、それ……。折角沖縄まで来て、ことが片付いたらすぐに戻れなんて……」その言葉が朱莉の耳にも届いた。(え? 航君……ひょっとして東京に戻っちゃうの?)朱莉は動揺した。リビングではまだ航と父との会話が続いている。『まあ本来なら2日位は休みを与えてやりたいところだが、至急の依頼が入ったんだよ。どうしても手が足りないから航、お前に戻って来て欲しいんだ。お前に調査をして貰わなければならなくなったんだよ』「一体、今度はどんな調査なんだよ。どうせ浮気調査なんだろう? だったら……」『いや、今回は浮気調査じゃない』「へえ……珍しいな。それじゃ何の調査なんだ?」『企業調査だ。ある企業からの依頼で今度新規に取引をする企業があるらしいのだが、そこが信用に値するかどうか調べて欲しいらしい。業績や経営状態、営業内容の把握……それらを調べて貰いたいそうだ」「ふ~ん……。成程……っておい! 俺はまだ引き受けるとは……!」『依頼相手はIT業界で注目を浴びている企業なんだ。『リベラルテクノロジーコーポレーション』という会社だ。航、お前この企業知ってるか?」「な、なんだって!? 『リベラルテクノロジーコーポレーション』だって!?」航は

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